元付業者は中古住宅案内の立ち会いに同行すべきか?

はじめに

こんにちは。

福山市の宅建マイスター、杉野です。本日は不動産仲介業務の基本といえる、「中古住宅の案内業務」について考えてみたいと思います。

 

中古住宅の売買仲介において、元付業者が客付業者の案内に同行しないケースは珍しくありません。客付業者から内覧希望の連絡が入ると、元付業者は物件の鍵を客付業者に渡し、当日の案内を依頼します。物件現地に鍵の入ったキーボックスが設置されている場合には、その鍵番号を伝えて案内を依頼することもあるでしょう。案内終了後、客付業者からお客様の反応などをヒアリングし、その内容を売主様へフィードバックします。

これが、多くの不動産会社で行われている業務フローであり、元付業者としての責任は十分果たしているように見えます。

しかし、私は「より成約の可能性を高め、売主様・買主様双方の顧客満足度を最大化するためには、元付業者は積極的に案内に同行すべきだ」と考えています。

それは単なる丁寧さの問題ではなく、売主様から媒介契約という委任を受けた専門家として、民法上の善管注意義務(善良な管理者の注意義務)を高いレベルで履行し、将来の契約不適合責任に起因する紛争リスクを未然に防ぐための、極めて重要なリスクマネジメントであると確信しています。

 

この記事では、なぜ元付業者が中古住宅の案内に立ち会うことが重要なのか、宅地建物取引業法や私の経験を踏まえて解説します。

 

元付業者とは:売主様より中古住宅の売却を依頼されている不動産会社

客付業者とは:買主様より物件の内見を依頼されている不動産会社

物件を案内する杉野

物件状況確認書を基に、住宅の性質を正確に説明します。

元付業者が案内に立ち会わない実務慣行とその背景

元付業者が案内に立ち会わない主な理由としては、以下のようなものが挙げられます。

1.客付業者への配慮:

 「客付業者がお客様を主体的に案内している場に、元付業者が過度に介入するのは失礼だ」という、一種の業界慣習的な配慮が存在します。

 

2.営業効率の観点:

 片手取引となる場合、元付業者は買主から仲介手数料を受領しないため、客付業者の案内に同行するのは費用対効果が低いと判断されることがあります。

 

3.手間と時間的制約:

 案内が集中する週末など、単純に人員や時間のリソースが不足しており、すべての案内に立ち会うことが物理的に困難な場合があります。

私が案内の同行を「責務」と捉える理由

私は、客付業者が案内する場合でも、自身の先約がない限りは極力同行するようにしています。

もちろん、最優先すべきはお客様のご都合ですので、私の都合で日程変更をお願いすることはありません。同行する理由は以下の3点に集約されます。

1.情報提供の質的向上と契約不適合リスクの低減:

 物件状況確認書(告知書)や建物状況調査報告書を基に、物件の不具合箇所や告知事項について現地で指し示しながら説明を行います(例:雨漏り箇所、建物の傾き、エアコンの動作状況等)。また、売主様の物件を購入した経緯や売却に至る理由などをその場で直接説明できます。

これにより、お客様の疑問や不安を即座に解消し、誤解のない正確な理解を促進します。これは、後の「言った、言わない」というトラブルや、契約不適合責任を問われるリスクを低減させる上で非常に効果的です。

 

2.売主様へのコンサルティング機能の強化:

 案内終了後、お客様の反応や質問、表情の変化といった非言語的な情報も踏まえ、売主様に対してより的確なアドバイスや報告ができます。例えば、「皆様、この点の経年劣化を指摘されますので、価格交渉が入る前にリフォームの見積もりを取っておきませんか?」といった、具体的な次の戦略を提案することが可能になります。

 

3.受託物件に対する物理的管理責任の遂行:

 (特に空き家の場合)頻繁に物件に立ち入ることで、郵便物の溜まり具合、雨漏りの兆候、不審者の侵入形跡など、物件の異常にいち早く気付くことができます。また、換気を行ったり、汚れていればその場で清掃したりするなど、売主様の大切な資産をお預かりしている受託者としての管理責任を全うできます。

元付業者の立ち会いが生む「チーム仲介」の価値

元付業者と客付業者がそれぞれの専門性を持ち寄ることで、取引の質はさらに向上します。元付業者が同行することで、以下のような相乗効果が期待できます。

1.情報伝達の正確性と深度:

 元付業者しか知り得ない詳細な情報(例:過去の修繕履歴の詳細、隣地所有者との境界に関する申し送り事項、町内会活動の状況など)をその場で補足できます。これにより、意図せぬ情報の齟齬を防ぎ、お客様の深い理解につながります。

 

2.機会損失の防止:

 お客様の何気ない質問や表情から、購入の後押しとなる的確な追加説明や提案を即座に行えます。例えば、「過去に壁紙を張り替える見積を取得したところ、○○円でした」「近隣のこの土地は最近〇〇円で成約しました」といった情報は、元付業者だからこそ迅速かつ責任をもって提供できる場合があります。

 

3.物理的な管理の徹底とコンプライアンス:

 案内終了時の戸締りや消灯、水道の元栓確認なども、複数人の目で確認することで、より確実性が増します。売主様からお預かりしている大切な資産を守るという観点からも重要です。

共同仲介における元付業者と客付業者の関係性

元付業者と客付業者は、売主様と買主様、それぞれの立場に立って媒介業務を行いますが、共同で一つの取引を成立させる以上、両者は「取引の安全」という共通の目標に向かうパートナーです。

宅地建物取引業法第31条が定める信義誠実の義務は、元付・客付を問わず、取引関係者すべてに対して負うものです。

もちろん、案内に同行する際には、事前に客付業者にその意図を伝え、あくまでサポート役として振る舞うなど、元付業者としての配慮は必要不可欠です。

決して客付業者の営業活動を妨害するようなことがあってはなりません。

 

まとめ

元付業者の案内への立ち会いは、単なる「手間」や「オプション」ではありません。

それは、売主様への受託者責任を高いレベルで果たし、契約不適合といった将来の紛争を予防するためのプロフェッショナルな業務の一環です。

元付業者と客付業者が互いに尊重し、連携を密にすることで、売主様、買主様双方にとって安全で満足度の高い不動産取引が実現し、ひいては不動産業界全体の信頼向上にもつながるのではないでしょうか。不動産取引の専門家として、ますます業務の質的向上を目指し、売主様、買主様の役に立てるような仕事をしていきたいと思います。

夏季休業のお知らせ

平素は格別のご愛顧を賜り、誠にありがとうございます。

誠に勝手ながら、弊社では下記期間を夏季休業とさせていただきます。

 

【夏季休業期間】

2025年8月11日(月・祝)~ 8月15日(金)

8月16日(土)より通常営業を再開いたします。

 

休業期間中にいただきましたお問い合わせにつきましては、営業開始日の8月16日(土)以降、順次ご対応させていただきます。

皆様にはご不便をおかけいたしますが、何卒ご了承くださいますようお願い申し上げます。

【2025年上半期総括】マンション「売れ残り時代」の売却戦略。データで読み解く福山の今

はじめに

こんにちは。

福山市の宅建マイスター、杉野です。

 

お盆休みを故郷で過ごされている方、ご自宅でゆっくりされている方、様々かと存じますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 

さて、2025年上半期が終了し、1ヶ月が経過しました。

この度、上半期全体の詳細なデータを精査し、福山市中古マンション市場の構造的な変化について分析がまとまりましたので、この機会にご報告いたします。

現在の市場は、「マンション売れ残り時代」と呼ぶべき局面にあります。しかし、これは悲観するだけではありません。

この時代を乗りこなし、ご所有の資産価値を最大化するための「売却戦略」があります。

 

この記事を読めば、なぜそのような状況になったのか、そしてこの時代に「選ばれる」ための具体的な方法がわかります。

1. なぜ「売れ残り時代」が到来したのか?

現在の市場を理解する鍵は、深刻な需給バランスの崩壊と、その背景にある構造的な問題にあります。

まず、四半期ごとの成約件数(需要)を見ると、年間を通じて概ね20~30件台で安定しています。

つまり、中古マンションを購入する人の数は、大きくは増えていません。

一方で、供給側のデータを見てみましょう。

四半期ごとの新規売出件数は、2025年第1四半期に72件、第2四半期には71件と、高い水準で物件が市場に供給され続けています 。

この「需要は一定なのに、供給は増え続ける」という構造的なアンバランスが、市場の在庫を急速に積み上げています。

月次の在庫件数の推移を見ると、そのスピードは一目瞭然です。2025年1月には130件だった在庫数は、月を追うごとに増加し、7月には162件と、この直近1.5年間で最多を記録しました。

そして、この供給が増え続ける根本的な原因は、増え続けるマンションストック数そのものにあります。

以前のブログ記事(参考記事:2030年、福山市のマンションは4割が老朽化?【データで見る不動産】)でも指摘した通り、福山市内では新規マンションの供給が続く一方で、古いマンションの除却(解体)は進んでいません。

これは、市場に存在する中古マンションの総量が、単純に積み上がり続けていることを意味します。

この供給過多の状態が、売主様間の競争を激化させている。これが「マンション売れ残り時代」の正体です。

2. 競争激化がもたらす「2つのコスト」

この厳しい市場環境は、売主様にとって具体的な「コスト」として、年々段階的に増加しています。

 

コスト①:時間的コスト(見過ごせない「維持費」の増大)

競争が激しいため、買い手が見つかるまでの時間は確実に長くなっています。

同時期(4月~6月期)の平均成約期間を比較すると、その変化は一目瞭然です。

  • 2023年 4月~6月期: 66.0日

  • 2024年 4月~6月期: 159.7日

  • 2025年 4月~6月期: 202.1日

わずか2年で、売却にかかる期間は約3倍にまで長期化しています。

 

この「売却期間の長さ」は、単に時間がかかるというだけではありません。

売却が完了するまでの間も、所有者である売主様には管理費・修繕積立金・駐車場代といった「維持費」が毎月発生し続けます。

例えば、これらの月々の維持費が合計で3万円だったと仮定して、売却までにかかる総コストを計算してみましょう。

  • 2023年(成約期間 約2.2ヶ月): 3万円 × 2.2ヶ月 = 約6.6万円

  • 2025年(成約期間 約6.7ヶ月): 3万円 × 6.7ヶ月 = 約20.1万円

売却期間が延びたことで、売主様が負担する維持費の総額は、2年間で約13.5万円も増加したことになります。これは、決して無視できない「時間的コスト」です。

コスト②:価格的コスト(拡大する値下げ率)

当初の希望価格のまま売却できるケースも、年々少なくなっています。

同じく4月~6月期の、当初売出価格からの平均値下げ率を見てみましょう。

  • 2023年 4月~6月期: 3.3%

  • 2024年 4月~6月期: 7.6%

  • 2025年 4月~6月期: 9.5%

こちらも2年間で約3倍に拡大しており、現在では当初の希望価格から約1割近い価格調整(値引き)を経て、ようやく成約に至っているのが標準的な市場であることを示しています。

【本レポートのデータについて】

※本レポートにおける成約価格や成約期間などの成約事例データは、西日本不動産流通機構(レインズ)等に登録された物件情報を基に集計しています。市場には登録されていない成約事例も存在するため、全ての取引を網羅したものではありません。しかし、市場全体の大きな傾向を把握するには十分なデータであると考えております。

3.【結論】「マンション売れ残り時代」を乗りこなす、3つの売却戦略

以上の分析を踏まえ、この厳しい市場を乗りこなし、ご所有の資産価値を最大化するための戦略を3つご提案します。

戦略①:ご自身の物件の「立ち位置」を客観的に知る

まず、ご所有のマンションが、豊富な在庫の中で買い手から「選ばれる」魅力を持つ物件なのか、それとも厳しい競争にさらされる物件なのか、その立ち位置を客観的に把握することが全てのスタートです。

周辺の「売出価格」ではなく、実際に取引されている「成約価格」のデータを基に、現実的な価値を把握する必要があります。

戦略②:スタートラインの最適化 ―「選ばれる」ための価格設定

豊富な選択肢を持つ買い手から「選ばれる」ためには、売り出し価格の設定が最も重要です。

競争が激しいカテゴリーに属する場合、最初から成約価格に近い価格設定を行うことで、買い手の注目を集め、結果として「時間的コスト」と「価格的コスト」を最小限に抑えることができます。

戦略③:「値下げ」を戦略的に活用する

現在の市場において、値下げは失敗ではなく、買い手の関心を惹きつけ、交渉のテーブルに着かせるための有効な「戦術」です。

例えば、「内覧が〇件入らなかったら、〇週間後に〇万円の価格調整を行う」といったプランを事前に立てておくことで、計画的に売却活動を進めることができます。

 

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福山市の中古マンション市場は、物件の価値が厳しく選別される「二極化時代」から、需給バランスが崩れた「売れ残り時代」へと移行しつつあります。

この厳しい市場環境を乗りこなすためには、正確なデータに基づいた専門家の視点が不可欠です。

ご自身の資産を最大限に活かすためにも、ぜひ一度、宅建マイスターの杉野にご相談ください。

 

売却のご用命、査定のご相談、各種お問い合わせはこちらからどうぞ。

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福山中古マンションウォッチ。価格調整が本格化。市場の最新動向をプロが徹底解説

こんにちは。

福山市の宅建マイスター、杉野です。

 

8月に入り、夏本番の厳しい暑さが続いておりますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

さて、今回は20257月度の福山市中古マンション市場を分析します。

特に今回は、過去1年間の「値下げ」に関する詳細データを深掘りしました。

そこから見えてきたのは、値下げの圧力が、時期によって異なる築年帯へと移動していく、まるで「波」のような現象です。

この市場の構造変化を理解することが、今後の不動産売買成功の鍵となります。早速、詳しく見ていきましょう。

1.【全体サマリー】20257月の主要データ

まずは、今月の主要な数値を一覧でご確認ください。

  • 70㎡換算平均価格: 2,158万円(前月比 -2.4% 📉)
  • 70㎡換算中央価格: 1922万円(前月比 -0.6%↔️
  • 平均在庫日数: 242日(前月比 -6.7% 📉)
  • 流通物件数: 162件(前月比 +5.2% 📈)
  • 価格改定(値下げ)率: 13.6% 

2.【深掘り分析】値下げ動向の全体像市場の転換点を捉える

まず、過去1年間の市場全体の「値下げ率(1ヶ月間に価格が引き下げられた物件の割合)」の推移をご覧ください。

2024年後半は10%15%で安定していましたが、20252月には27.7%というピークに達しました。

これは、市場が「売り手優位」から「買い手優位」へと転換した瞬間を明確に示すシグナルでした。

その後、値下げ率は落ち着きを取り戻し、直近の7月は13.6%となっています。

市場のパニック的な価格調整は終わり、現在は着実な調整フェーズにあることがうかがえます。

3.【深掘り分析】値下げの波 ― 価格調整の中心地は移動する

次に、この値下げの動きが、どの築年帯で起こっていたのかを見ていきます。

  • 2025年5月:「築25~40年」に値下げの嵐

5月の市場では、築2530年の物件で53.3%、築3540年で37.5%という驚異的な値下げ率を記録しました。

この月は、築年数が経過した中間層の物件が、一斉に価格調整を行った「嵐」の中心地でした。

  • 2025年7月:「築10~15年」へ波が到達

7月になると、その嵐は落ち着き、今度は築1015年の値下げ率が28.6%へと急上昇しました。

【考察】

このデータから、価格調整の圧力が、まず築年数の古い物件層で進み、その後、より新しい物件層へとドミノ倒しのように波及していく様子が明確に読み取れます。

今、値下げの「波」は、築1015年という、比較的新しいカテゴリーに到達しているのです。

 

築年帯 2025年5月 2025年7月
築10~15年未満 0.0% 28.6%
築25~30年未満 53.3% 7.4%
築35~40年未満 37.5% 11.1%

 

4. 7月市場の詳細データと解説

この「値下げの波」を念頭に、7月単月のデータを見ていきましょう。

  • 価格と販売期間の関係

平均価格は下落しましたが、在庫日数(販売期間)は242日と5ヶ月ぶりに短縮しました。

これは、戦略的な値下げが買い手の需要を喚起し、市場の流動性を高めている健全な動きです。

  • 豊富な在庫

全体の在庫数は162件へと増加し、買い手にとっては豊富な選択肢の中からじっくり検討できる状況が続いています。

 

5. まとめ|20257月市場のポイントと今後の展望

2025年7月の市場動向から、以下の3点が明らかになりました。

1.「価格調整の本格化」

全体の値下げ率が13.6%と高い水準にあるだけでなく、その動きが特定の築年帯に限定されず、広範囲に及んでいることから、市場が本格的な価格調整局面にあることがわかります。

特にこれまで動きの少なかった築1015年で値下げが活発化しているのが今月の特徴です。

2.「適正価格」が早期売却の鍵

販売期間が短縮した事実は、「現実的な価格設定が、早期売却に直結する」という市場原理を改めて証明しました。

3.ご自身の物件の「立ち位置」を知る

もはや全ての物件が一様に動く市場ではありません。

ご所有の物件が、値下げの波の「どの位置」にいるのかを把握することが、売買戦略の第一歩となります。

 

【売主様へ】

ご所有マンションの築年帯の値下げ率や価格動向を注視してください。

値下げの波が来ているカテゴリーでは、積極的な価格戦略が早期売却に繋ります。

逆に、波が過ぎ去ったカテゴリーでは、相場が安定し始めている可能性もあります。

 

【買主様へ】

値下げが活発化している築年帯は、まさに価格交渉のチャンスです。

特に築1015年の物件を検討されている方は、今が好機かもしれません。

物件の価格履歴を確認することをお勧めします。

 

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ご所有マンションの正確な価値や、最新市況に合わせた売却戦略にご興味のある方は、ぜひ一度、株式会社杉野伸不動産事務所までご相談ください。

専門的な知見に基づき、お客様一人ひとりに最適なご提案をいたします。

 

売却のご用命、査定のご相談、各種お問い合わせはこちらからどうぞ。

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プロは『議事録』まで読み込む!マンション売却で失敗しない調査術

こんにちは。

福山市の宅建マイスター、杉野です。

 

中古マンションを売却する際、管理会社から取得する「重要事項調査報告書」は非常に重要な書類です。

ここに「管理費等の変更予定なし」と書かれていれば、誰もが安心するでしょう。

しかし、もしその記載だけを信じて取引を進めた結果、引き渡し直後に買主様から「話が違う!」とクレームが入ったら…?

本日は、そんな「隠れたリスク」から売主様と買主様を守る、プロの調査術についてお話しします。

この記事は、不動産流通の専門誌「アットホームタイム8月号」に掲載された裁判事例を参考に、私の実務経験を交えて解説いたします。

【裁判事例】引き渡し直後に管理費が値上げ!一体誰の責任?

最近、まさにこのようなトラブルが裁判にまで発展した事例がありました。

  • 状況: 不動産会社が取得した調査報告書には「管理費等の変更予定なし」と記載。その通りに買主へ説明。

  • 現実: 引き渡しの直後、管理費と修繕積立金が大幅に値上げ。

  • 買主の主張: 「値上げ予定があったのに説明しなかった!」として、売主と不動産会社を提訴。

驚くべきことに、裁判所は「報告書に基づいて説明した業者に、法的な説明義務違反はない」として、不動産会社の責任を認めませんでした。

法的にはセーフでも、買主様は納得いかず、後味の悪い取引になってしまいました。

私たち不動産のプロは、法的な義務を果たすだけでなく、このような「感情的なトラブル」をも未然に防ぐ責任があると考えています。

 

アットホームタイム8月号 No.524より引用

なぜ調査報告書だけでは不十分なのか?「予定なし」の裏側

実は、管理会社は「総会で正式に決議されるまで」は、たとえ理事会で値上げの議論が進行していても、調査報告書には「予定なし」と記載するのが一般的です。

つまり、水面下で値上げの検討が始まっていても、その「兆候」は調査報告書には現れないのです。

ここに、トラブルの種が潜んでいます。

【私の実体験】議事録から「未来のリスク」を読み解き、トラブルを未然に防いだ話

先日、私が担当したお客様の事例です。やはり、管理会社から取得した重要事項調査報告書には「修繕積立金の変更予定なし」と記載されていました。

しかし、私は念のため、管理組合の「理事会の議事録」まで取り寄せ、内容を精査しました。すると、そこには「将来的な積立金の値上げは避けられない」という、将来の値上げを示唆する議論の記録がはっきりと残っていたのです。

私は買主様に対し、正直にこうお伝えしました。

「公式な報告書は『管理費等の変更予定なし』ですが、議事録を見る限り、近い将来に値上げされる可能性が高いです。その点もご承知おきください。」

買主様は、その透明性の高い説明に大変納得され、「正直に教えてくれてありがとう」と、安心して契約に進んでくださいました。

もちろん、引き渡し後にトラブルは一切起きていません。

まとめ:不動産取引で本当に大切なこと

▶不動産会社の方へ:調査の「タイミング」が成否を分ける

重要事項調査報告書の取得タイミングについてです。

この報告書は数万円の費用がかかるため、「契約が決まるまでは取り寄せない」という会社があると聞きます。しかし、その判断には大きなリスクが伴います。

契約直前に取得した資料から、大規模修繕の一時金徴収など、買主様の判断に影響する思わぬ事実が判明したらどうでしょうか。また、契約間際では、たとえ資料を入手しても十分に読み込み、お客様に説明する時間がありません。これではプロの仕事とは言えません。

私たち不動産会社は、極力、売主様と媒介契約を締結したタイミングで速やかに調査報告書を取得するべきです。これが、リスク管理の第一歩です。

さらに、本記事で述べたように、報告書だけでなく「直近の議事録」「長期修繕計画書」まで精査することが求められます。特に長期修繕計画書は、その策定・改定時期を確認し、昨今の物価高や人件費上昇を鑑みて、計画が実態にそぐわないものになっていないかを見極める視点が不可欠です。私たちの仕事は、単に情報を流すことではなく、その背景を読み解き、未来のリスクを予見することです。

▶売主様へ:良い不動産会社の見極め方

安心して大切な資産を売却するためには、このような深い調査を実践してくれる不動産会社を選ぶことが重要です。

「調査報告書はいつ取得しますか?」「議事録や長期修繕計画書まで確認してくれますか?」と、ぜひ担当者に質問してみてください。その回答に、会社の姿勢が現れます。

▶買主様へ:安全な購入を目指すには

中古マンションの購入は、お部屋の見た目の良さや立地だけで決めてはいけません。

そのマンションが、将来にわたって資産価値を維持できるかどうかは、「管理が健全かどうか」に大きく左右されます。

その健全性をチェックする上で、特に重要な資料が「議事録」「長期修繕計画書」です。

  • 議事録では、修繕積立金の値上げや、大規模修繕の計画が順調に進んでいるか、また住民間のトラブルなど、将来のリスクになりそうな問題が起きていないかを確認します。

  • 長期修繕計画書では、計画の策定・更新時期を必ず確認しましょう。もし何十年も前の計画のままだと、昨今の物価高や人件費の上昇が全く反映されておらず、将来、修繕積立金が大幅に不足して一時金が必要になる、といった事態に陥る可能性があります。

こういったマンションの「健康状態」は、これらの資料に記録されています。

気になる物件が見つかったら、必ず担当の不動産会社経由で取り寄せてもらい、内容を確認しましょう。誠実な担当者であれば、快く対応してくれるはずです。

 

当社は、表面的な情報だけでなく、その裏にある背景まで読み解き、すべての関係者が心から納得できる取引を目指しています。

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