不動産取引の落とし穴、「申込の順番」トラブルを回避する三者の心得

はじめに:不動産取引の第一歩「買付証明書」とは?

 

理想の物件が見つかったとき、その購入意思を売主様に正式に伝える第一歩が「買付証明書(購入申込書)」の提出です。

この書面には、希望購入価格や引渡しの時期、住宅ローンの利用といった契約の前提となる条件を記載します。

これにより、売主様と買主様が正式契約の前に条件をすり合わせ、円滑に交渉を進めることが可能になります。

 

しかし、この「申込みの順番」をめぐり、買主様の期待が裏切られたり、売主様が本来得られるはずだった利益を失ったりするトラブルが後を絶ちません。

今回は、不動産取引に関わるすべての方に知っていただきたい「買付申込」の正しい知識と、トラブル回避のポイントを専門家の視点から解説します。

 

【買主様へ】「一番手なら安心」は大きな誤解です

 

多くの方が、「一番に申込みをすれば、その物件を買えるはず」と考えてしまいがちですが、これは誤解です。

買付証明書は、あくまで「交渉の申入れ」であり、法的な拘束力を持つ「契約」ではありません。

 

たとえ申込が一番手であっても、売主様はより良い条件を提示した他の申込者を選ぶ権利を持っています。

価格はもちろん、現金購入か住宅ローン利用か、引渡しの時期など、総合的に判断されるのです。

 

したがって、買主様におかれましては、以下の2点を心に留めておくことが重要です。

  • 一番手でも契約が確定したわけではないと理解する
  • 仮に二番手になっても、交渉の権利がなくなるわけではないため、諦めずに売主様の最終判断を待つことも有効である

 

【売主様へ】売却先を「選ぶ権利」を持っています

 

ご自身の不動産を売却するにあたり、売主様は申込の順番に縛られる必要はありません。

ご自身の意向に最も沿う買主様を最終的に選ぶ権利があります。

 

ただし、その選択がトラブルに発展しないよう、以下の点を意識すると良いでしょう。

  • 全ての申込みの報告を受ける権利があることを知る

たとえ希望価格に満たない指値の申込みであっても、それは市場の反応を示す重要な情報です。

仲介を依頼している宅建業者には、書面の有無にかかわらず、全ての申込みや具体的な商談について、遅滞なく報告する義務があります。

  • 公平性を保つためのルール作りを不動産会社と相談する

複数の申込みが予想される場合、「〇月〇日まで申込みを受け付け、その中から検討します」というように、事前にルールを決めておくと、より公平性が高く、買主様の納得感も得られやすい取引になります。

 

【宅建業者向け】その対応、重大なコンプライアンス違反です!許されない「申込操作」の手口

私たち宅建業者は、取引の専門家として、常に公正・中立な立場でなければなりません。

しかし、残念ながら、自社の利益や都合を優先し、売主様の利益を損なう悪質な行為が見受けられます。

次に掲げる事例は、宅建業法に違反する重大なコンプライアンス違反です。

<違反事例1:両手仲介のための「有利な申込の隠蔽」> 

自社で売主様から依頼を受け、自社で見つけた買主様から申込み(住宅ローン利用)が入った後、他社から現金・満額という、一番手より有利な申込みが入ったにもかかわらず、その事実を売主様に報告しない。

これは自社での取引を優先させることで、売主様からも買主様からも仲介手数料をいただけるいわゆる両手取引のチャンスがあるために、二番手の申込を意図的に隠ぺいする非常に悪質なケースです。

<違反事例2:「申込みが入った」を理由に、他の内見を一方的に断る> 

買主から購入申込書が提出された後、まだ売主様が契約相手を最終決定していないにもかかわらず、他の不動産会社からの内見依頼に対し、「すでに申込みが入りましたので、ご紹介は終了しました」と伝え、独断ですべて断る。

この行為は、売主様がより良い条件の買主様に出会う機会を、宅建業者が一方的に奪ってしまう「機会損失」を生じさせます。

申込みが入った後に内見や他の申込みを受け付けるかどうかの決定権は、あくまで売主様にあります。

<違反事例3:勝手な判断による「指値申込の握り潰し」> 

売出価格より低い指値での申込みに対し、「この価格では売主は売らないだろう」と勝手に判断し、売主様に報告しない。

この事実を後から知った売主様は、申込みが有れば値下げを検討しようと考えていたため大きなクレームとなり、不動産会社は信用を失うこととなりました。

 

これらの行為は、売主様がより良い条件で売却できる機会や、正常な意思決定をするための判断材料を奪う行為であり、宅地建物取引業法第31条が定める「信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない」という信義誠実の原則に明確に違反します

特に重要なのは、宅建業者には「報告義務」(宅建業法第34条の2・媒介契約)があるという点です。

たとえ希望価格に満たない指値の申込みであっても、それは市場の反応を示す売主様にとっての重要な情報です。

どのような内容であれ、受け付けた申込みはすべて遅滞なく売主様に報告し、最終的な判断を委ねなければなりません。

自社の利益追求のために売主様の不当な損失につながる行為は、決して許されません。

私たち専門家には、常に高い倫理観と職業意識が求められています。

 

結論:公正な取引のために、すべての関係者が心掛けるべきこと

 

不動産取引は、信頼関係の上に成り立つものです。

買主様と売主様は、買付証明書の位置づけを正しく理解し、仲介を依頼する宅建業者と密にコミュニケーションを取ることが大切です。

そして私たち宅建業者は、常に高い倫理観と職業意識を持ち、目先の利益に惑わされることなく、客観的な事実を正確に当事者へ伝えるという責務を全うしなければなりません。

透明性の高い、誠実な業務こそが、お客様からの信頼を得て、業界全体の健全な発展につながる唯一の道であると確信しています。

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