【後編】なぜ成約までの期間や価格に差が出るのか?データで見る市場の現実
投稿日:2025.07.21
こんにちは。
福山市の宅建マイスター、杉野です。
【前編】では、福山市の中古住宅市場で「取引は活況なのに平均価格は下落している」謎を解き明かし、その背景に「コストパフォーマンスを重視する購入者の、中心部から郊外への大移動」があることを解説しました。
では、需要が旺盛な市場で、全ての物件が順調に売れているのでしょうか?
今回の【後編】では、「成約日数」と「価格変動」に関するデータを基に、物件ごとに成約までの道のりに差が生まれている、市場のもう一つの側面に焦点を当てます。
1.【データが示す現実】成約までの期間と価格変動の実態
現実①:売却期間の長期化傾向
まず、売れるまでの期間です。
下の表は、成約までにかかった日数をまとめたものです。
成約日数 | 2023年度 | 2024年度 | 増加率 |
90日未満(3ヶ月未満) | 72件 | 88件 | +22% |
90日以上180日未満(3ヶ月以上6ヶ月未満) |
46件 | 54件 | +17% |
180日以上(6ヶ月以上) | 66件 | 130件 | +97% |
データが示す通り、3ヶ月以内に早く成約する物件も堅調に増えています。
しかし、それ以上に売却に半年以上を要した物件が、+97%と顕著に増加していることが分かります。
現実②:価格調整を経て成約する物件の増加
次に、売出価格と成約価格の差、つまり価格の変動率(値下げ率)を3つの区分で見てみましょう。
値下げ率 | 2023年度 | 2024年度 | 増加率 |
5%未満 | 106件 | 119件 | +12% |
5%未満10%以上 | 18件 | 32件 | +78% |
10%以上 | 60件 | 121件 | +102% |
「5%未満」の、ほぼ価格を変えずに成約した物件の伸びは+12%に留まる一方、価格調整を経て成約した物件、特に「10%以上」の調整が行われた物件が倍増していることが、より鮮明になりました。
2.【考察】なぜ、成約までの道のりに差が生まれるのか?
これらのデータから見えてくるのは、活況な市場の中にも、「スムーズに成約に至る物件」と「時間を要し、価格調整を経て成約に至る物件」という、二つの異なる流れが存在するということです。
この差が生まれる最大の要因は、「売出価格と、現在の市場が求める価格との調和」にあると考えられます。
購入者の目が厳しくなっている現在、市場の相場観と近い「適正な価格」で売り出された物件は、多くの購入者の目に留まり、スムーズな成約へと向かいます。
一方で、売主様の期待を込めた価格設定が、市場の相場観と少し離れている場合、購入者の選択肢から外れやすくなり、結果として時間をかけて価格を調整していく過程が必要になるのです。
3.【最終提言】今後のトレンドを見据えた、後悔しない不動産戦略
これまでのデータ分析で、現在の福山市の不動産市場が「コストパフォーマンスを重視する郊外シフト」と「初期価格設定が重要な二極化市場」であることが明らかになりました。
では、今後予測される「地価の上昇」「継続的な物価上昇」「賃金の上昇」という3つの大きな経済トレンドは、この市場にどのような影響を与えるのでしょうか。それを踏まえ、皆様への最終的な提言をまとめます。
地価・物価の上昇 → 郊外物件の魅力が相対的に高まる
今後、福山市全体で地価や物価が上昇し続けると、中心部の不動産はさらに高嶺の花となります。
結果として、価格が手頃な郊外エリアの物件を求める流れは、一過性のものではなく、さらに加速すると予測されます。
賃金の上昇 → 購入者の購買意欲と決断スピードが上がる
賃金の上昇は、住宅ローンの返済能力を高め、人々の購買意欲を刺激します。
しかし、同時に物価や不動産価格も上昇するため、「良い物件があれば、早く決断しないと買えなくなる」という心理が働きます。
これにより、市場の流動性はさらに高まり、優良物件の売却スピードは一層速まるでしょう。
この2つのトレンドが組み合わさることで、「適正価格の優良物件」と「そうでない物件」の格差、すなわち「二極化」は、今後さらに鮮明になっていくと考えられます。
【購入をご検討の方へ】求められるのは「決断力」と「柔軟な視野」
- 「時間」を味方につける準備を。
賃金上昇を待っていては、それ以上に不動産価格が上昇してしまう可能性があります。「良い物件が出たら、すぐに動ける」状態を作っておくことが、これまで以上に重要です。具体的には、信頼できる不動産会社をパートナーとし、資金計画(ローン事前審査など)を予め済ませておくこと。これが、競争に勝つための最低条件となります。
- エリアの「固定観念」を捨てる。
今回のデータが示す通り、魅力的な物件は中心部だけに存在するわけではありません。「郊外エリア」にまで視野を広げることで、予算内で理想の暮らしを実現できる可能性が大きく広がります。
【売却をご検討の方へ】鍵は「スピード」と「戦略的価格設定」
- 「高値チャレンジ」の幻想を捨てる。
今後の市場では、売れ残った物件は競合物件との価格差がますます広がり、より不利な状況に陥ります。「少し高く出して様子を見る」という戦略は、できる限り避けるべき選択です。いたずらに時間をかけることは、売却機会の損失に直結します。
- 「3ヶ月以内の成約」を目標とした価格設定を。
今回の分析が示す最も重要な教訓は、「初期の価格設定が、売却の成否をほぼ決定づける」という事実です。豊富なデータを基に「市場が今、本当に求めている価格」を正確に把握し、戦略的に売却活動をスタートさせることが、結果的にご自身の利益を最大化する、最も確実な近道となります。
最後に
私は宅建マイスターとして、このような複雑な市場のデータを多角的に分析し、お客様一人ひとりのご事情やご希望に寄り添いながら、最適な戦略をご提案することを使命としています。
複雑な市場だからこそ、信頼できるパートナーと共に、後悔のない不動産取引を実現しましょう。
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