相続登記義務化から1年。データで見る中古住宅市場のリアルな変化
投稿日:2025.06.29
福山市の不動産市場、相続登記義務化から1年の動向と展望
こんにちは。
宅建マイスターの杉野です。
2024年4月に施行された「相続登記の義務化」から1年以上が経過し、不動産市場、特に中古戸建市場への影響に関心が集まっています。
この制度は、不動産の購入や売却をご検討されている皆様にとっても、無視できない重要な変化をもたらしています。
本稿では、実際の市場データを基に、現在の中古戸建市場で観測される主要なトレンドを分析し、今後の展望と考察を解説いたします。
1. はじめに:相続登記義務化とは
相続登記の義務化とは、不動産を相続した方が、その事実を知った時から3年以内に法務局へ登記申請を行うことを義務付ける制度です。
これまで任意であった手続きが必須となり、正当な理由なく怠った場合には過料が科される可能性もあります。
この制度は、所有者不明土地や空き家問題の解決に繋がる一方、個々の不動産取引においては、より複雑な権利関係や法律知識が求められる場面が増えることを意味します。
2. 市場への影響:福山市における現状分析
制度施行から1年が経過した現在、福山市の中古戸建市場が物件で溢れるといった急激な変化は見られません。
これには、相続発生から売却活動開始までに時間を要する「タイムラグ」や、3年間という「猶予期間」の存在が影響していると考えられます。
しかし、市場データをつぶさに分析すると、決して変化がないわけではなく、むしろ今後の市場動向を占う上で重要な、構造的変化の兆候が見られます。
3. データから読み解く、福山市中古戸建市場の3つの主要トレンド
以下では、実際の市場データを基に、現在観測されている3つの主要なトレンドについて解説します。
トレンド①:供給は横ばい、しかし需要は力強く増加 — 市場の需給バランスに変化
まず最も注目すべきは、市場の需給バランスに大きな変化が見られる点です。
一部では相続登記義務化による供給増が予想されていましたが、福山市のデータを見ると、新規売出件数は2023年度(23年4月~24年3月)の月平均約69件に対し、2024年度(24年4月~25年3月)は月平均約67件と、ほぼ横ばい、むしろ微減で推移しています。
これは、売却を急ぐ所有者がまだ限定的であることを示唆しています。
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福山市中古戸建 売出・成約件数の推移(月平均)
2023年4月~2024年3月 | 2024年4月~2025年3月
▶新規売出件数 | 約69件 | 約67件(微減)
▶成約件数 | 約15件 | 約23件(増加)
このデータが示す最も重要なポイントは、「市場に出てくる物件の数が増えない中で、買いたい人が大幅に増えている」という市場の引き締まりです。
これにより、市場の在庫は減少傾向にあり、需給バランスは「売り手市場」へと傾きつつあると考えられます。
トレンド②:供給物件の多様化と市場価格の安定化
次に、市場の価格動向です。結論から言うと、中古住宅の平均成約価格は明確な下落傾向を示しています。
トレンド①で見たように全体の供給量は横ばいですが、その内訳として相続等を契機とした多様な物件が流通し始めていることが、価格に影響を与えていると考えられます。
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福山市中古戸建 平均成約価格の推移
▶2023年度: 約1626万円
▶2024年度: 約1444万円
1年間で平均価格が約180万円下落していることが分かります。
これは、個々の物件価値が下がったというよりも、比較的手頃な価格帯の物件が市場に増え、全体の平均値を押し下げている可能性が高いことを示唆しています。
買い手にとっては予算内で検討できる物件の選択肢が広がっている一方、物件の質を慎重に見極める必要性が高まっているとも言えるでしょう。
トレンド③:成約日数に見る「二極化」の進行
第三のトレンドが、市場の「二極化」です。
トレンド①で見たように市場が売り手優位に傾き、買い手間の競争が激しくなるほど、買い手はより慎重に物件を選別するようになります。
その結果、条件の良い物件とそうでない物件とで、売却期間に大きな差が生じています。
この事実は、成約日数の「平均値」と「中央値」の乖離から明確に読み取れます。
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成約日数のデータに見る二極化
▶中央値(※):約5~6ヶ月
▶平均値:約8~9ヶ月
※中央値:成約物件を期間が短い順に並べた時、ちょうど真ん中に位置する物件の売却期間
中央値が5~6ヶ月であるのに対し、平均値がそれよりも長いのは、一部の売却に時間のかかる物件が全体の数値を引き上げているためです。
これは、「条件の良い物件は競争の末、速やかに成約する」一方で、「そうでない物件は買い手から選ばれず、長期にわたり市場に留まる」という二極化した実態を如実に示しています。
4. 今後の市場との向き合い方:購入・売却をご検討の方へ
これらのトレンドを踏まえ、今後の市場とどう向き合うべきか、考察します。
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購入をご検討の方へ
市場が引き締まり、良い物件を巡る競争は激しくなっています。
信頼できる専門家と連携し、情報収集を密に行い、内覧から購入申し込みまで迅速に判断できる準備をしておくことが重要です。
ただし、焦りは禁物です。多様な物件の中から、将来的な価値も見据えた冷静な判断が求められます。
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売却をご検討の方へ
現在は売り手にとって比較的有利な市場環境と言えます。
しかし、「二極化」が進んでいることからも分かる通り、どんな物件でも高く早く売れるわけではありません。
買い手はより物件を厳しく見ています。適正な価格設定と、物件の魅力を最大限に伝える売却戦略が、成功の鍵を握ります。
5. 最後に:複雑な不動産取引こそ「宅建マイスター」へ
本稿では、相続登記義務化から1年が経過した福山市の中古住宅市場について、データに基づいた分析を行いました。
市場は、需要の増加と供給の多様化を背景に、新たな局面を迎えています。
このような変化の時代においては、感覚だけに頼るのではなく、客観的なデータと市況の深い理解に基づいた不動産戦略が不可欠です。
特に、空き家を含む相続不動産の問題は、法律や税金も絡む複雑なケースが少なくありません。
高度な専門知識と倫理観を併せ持つ「宅建マイスター」として、複雑な不動産取引においてもお客様の利益を守り、適正な取引が実現できるよう最後までサポートすることをお約束いたします。
豊富な経験と専門知識を基に、皆様一人ひとりの状況に合わせた最適なご提案をさせていただきます。
不動産の購入、売却、あるいは相続に関するご相談など、どのようなことでもお気軽にお問い合わせください。