【前編】福山市の中古住宅、価格下落の真相。データが示す「中心部から郊外へ」静かなる大移動
投稿日:2025.07.14
こんにちは。
福山市の宅建マイスター、杉野です。
さて、現在の福山市の中古住宅市場で起きている、「取引件数は1.5倍に増える活況ぶりなのに、平均価格は逆に約180万円も下落している」という、一見すると矛盾した現象について、皆様はどのようにお考えでしょうか。
今回の【前編】では、このパラドックスを解き明かす鍵となる「購入者たちの静かなる大移動」に焦点を当て、データからその実態を解き明かしていきます。
1.【出発点】求められる「理想の暮らし」のサイズ
全ての物語は、人々のシンプルな願望から始まります。
新築住宅の価格高騰や物価上昇を背景に、中古住宅市場に目を向けたファミリー層。
彼らが求めるのは、新築で叶えたかったであろう「ゆとりのある暮らし」です。
その結果、市場では「広い建物(100㎡以上)」と、それを支える「広い土地(150㎡以上)」への需要が、データで明確に示されるほど高まっています。
データで見る「広さ」への需要 | 2023年度 | 2024年度 | 増加率 |
建物面積100㎡以上150㎡未満 |
78件 |
142件 |
+82% |
土地面積150㎡以上 |
136件 |
216件 |
+59% |
ファミリー層に最適な「100㎡~150㎡」の建物や、「150㎡以上」の広い土地を持つ物件の成約が、市場全体の増加率(+48%)を大きく上回って増加しています。
2.【必然の選択】エリア別データが示す「中心部から郊外へ」の明確な流れ
では、「広い土地に建つ、広い家」という理想の住まいは、福山市のどこにあるのでしょうか。
ここで、今回の「エリア別の地価(坪単価)」データが、購入者の行動を雄弁に物語ります。
エリア |
2024年度 平均坪単価 |
2024年度 成約件数 |
成約件数増加率 (前年比) |
中部 |
35.0万円 |
15件 |
-25% |
南部 |
33.6万円 |
19件 |
0% |
東部 |
21.1万円 |
63件 |
+43% |
西部 |
14.2万円 |
69件 |
+123% |
北部 |
9.9万円 |
106件 |
+51% |
地価が高く、坪単価が30万円を超える中部・南部エリアでは、成約件数が停滞、あるいは減少しています。
一方で、地価が手頃な西部・北部エリアの成約件数が爆発的に増加しているのです。
3.【決定的証拠】価格帯データが示す「市場の重心」の変化
そして、この一連の動きを最終的に証明するのが、「どの価格帯の物件が売れているか」というデータです。
成約価格帯 | 2023年度 | 2024年度 | 増加率 |
1500万円未満 | 97件 | 155件 | +60% |
1500万円以上 | 87件 | 117件 | +34% |
市場全体 | 184件 | 272件 | +48% |
ご覧の通り、市場の成長を牽引しているのは、明らかに「1500万円未満」の価格帯です。
この価格帯の取引は+60%という、市場全体の増加率(+48%)を大きく上回る勢いで増加しています。
この3つのデータを重ね合わせることで、購入者の行動原理が明確になります。
「同じ予算なら、少しでもコストパフォーマンスの良い選択をしたい」
地価の高い中心部を避け、坪単価が半分以下である郊外の西部・北部エリアを選ぶことで、購入者は「広い土地」と「広い家」という理想の暮らしを手に入れています。
つまり、平均価格の下落は、個々の家の価値が下がったのではなく、コストパフォーマンスを追求する人々が、価格が手頃な郊外エリアの物件を活発に取引した結果、市場の“取引の重心”が完全にシフトしたことによる、必然の帰結だったのです。
【後編へ続く】
さて、【前編】では「郊外シフト」という大きな人の流れが、データによって証明されました。
しかし、この活況な市場の裏側で、全ての物件が順調に売れているわけではありません。
次回の【後編】では、最新の「成約日数」と「値下げ率」のデータから、物件ごとに成約までの道のりに差が生まれている、市場のもう一つの現実に迫ります。
どうぞご期待ください。