【前編】契約解除リスクを激減させる「隣接地調査」というプロの仕事

“丸投げ”測量はもうやめませんか? 契約解除リスクを激減させる「隣接地調査」というプロの仕事

こんにちは。

福山市の宅建マイスター、杉野です。

 

安全な不動産取引の実現に不可欠な「境界確定測量」。多くの実務者が頭を悩ませるこの業務には、実は契約を根底から揺るがしかねない大きなリスクが潜んでいます。

今回の記事は、そのリスクを未然に防ぐための極めて重要な手法である「隣接地所有者の事前調査」について、【前編】と【後編】の二部構成でお届けします。

  • 【前編】では、なぜ従来の「契約後の測量」が危険なのか、その具体的なリスクと、解決策としてなぜ「査定段階での調査」が有効なのか、その重要性を徹底解説します。
  • 【後編】では、私自身が実際に遭遇し、解決に導いた具体的なケーススタディを交えながら、専門家との連携を含めた実践的な対応策をご紹介します。

 

まずは【前編】で、皆様の日常業務に潜むリスクを再確認していきましょう。

【前編】なぜ「隣接地調査」が取引の成否を分けるのか

 

突然ですが、境界確定測量に関する実務、こんな「綱渡り」状態になっていませんか?

  • 境界確定測量は、土地家屋調査士に「お任せ」状態。
  • 測量する対象地の情報だけを送って、あとは報告待ち。
  • 引渡期日が迫る中、進捗状況を確認する電話を土地家屋調査士に毎日かけてしまう。
  • 決済に間に合わせるため、隣地所有者の都合を考えず、無理な日程で立会いを依頼してしまう。

もし一つでも心当たりがあれば、それは取引に重大なリスクを抱えているサインかもしれません。このような不安定な取引を防ぐ鍵こそが、私たち宅建業者自身による「隣接地所有者の事前調査」なのです。

 

1. 「契約後の境界確定測量」に潜む恐ろしい落とし穴

 

実務の慣習となっている「契約後の境界確定」には、取引全体を頓挫させかねない大きなリスクが潜んでいます。

  • 所有者不明・連絡不能問題: 隣接地の登記名義人が古く、相続登記が未了であったり、空き家で所有者の所在が不明であったりするケースは決して珍しくありません。
  • 時間的制約: 所有者の探索や相続人の確定には数ヶ月以上を要することもあり、引渡し期日に間に合わず、契約違反となる可能性があります。
  • 契約解除という最悪のシナリオ: 境界確定が不可能となれば、売買契約の特約事項に則って契約は白紙解除に。売主様・買主様双方に多大なご迷惑をおかけすることになります(契約後に測量を行う場合、白紙解除となる特約を設定することが一般的です)

この結果、何が起こるでしょうか?

  • 買主様は… 物件探しや住宅ローンの手続きに費やした膨大な時間と労力が水泡に帰します。「この物件のために他の優良物件を諦めたのに…」というやるせない思いを抱かせることになります。
  • 売主様は… 売却の機会を失い、測量費用という実損だけが残ります。精神的なご負担は計り知れません。
  • そして私たちは… お客様からの信頼を失い、プロとしての責任を問われることになりかねません。

 

2. 解決策は「査定段階」での先回り調査

 

この深刻なリスクを回避する唯一かつ最善の方法が、査定依頼を受けた段階で、対象不動産と同時に隣接地所有者の調査を行うことです。

【調査の3ステップ】

  1. 登記情報の取得: まずは対象地と全ての隣接地の登記情報を取得します。費用は多数取得したとしても数千円程度。これで登記上の所有者と住所が判明します。
  2. 現地での確認: 登記情報の住所と、現地の住宅の表札が一致しているかを確認します。空き家になっていないか、人の住んでいる気配があるかも重要なチェックポイントです。
  3. ヒアリング: もし登記情報と現況に相違があれば、売主様に隣人についてお話を伺います。必要であれば、個人情報保護に十分配慮しつつ、他のご近所の方にそれとなくお話を伺うことも有効です。

 

3. なぜ、この一手間が重要なのか

 

査定段階での隣接地調査は、単なるリスク回避に留まらず、取引に関わる全ての人にメリットをもたらします。

  • 売主様への貢献: 境界確定にまつわる内在リスクを顕在化させることで、課題解決に向けた具体的な手段を得るともに、安心して売却活動に臨んでいただけます。
  • 買主様への貢献: 安全な取引が保証され、契約後の白紙解除という最悪の事態を避けられます。
  • 宅建業者自身のメリット:
    • トラブルの未然防止という最大のリスクヘッジになります。
    • 「この人はプロだ」とお客様からの信頼が格段に向上します。
    • 私たち宅建業者には、専門家として高度な注意をもって業務を遂行する義務(善管注意義務)があります。この調査は、まさにその義務を能動的に果たす行為と言えるでしょう。

 

ここまで、なぜ査定段階での隣接地調査が不可欠なのか、その理由とメリットを解説してきました。しかし、「理屈は分かったが、具体的にどう動けばいいのか?」「所有者不明など、難しいケースに直面したらどうするのか?」という疑問が湧いてくるかと思います。

 

【後編】では、私自身が実際に遭遇し、解決に導いた具体的なケーススタディを交えながら、専門家との連携を含めた実践的な対応策を徹底解説します。ご期待ください。

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