【2025年中古戸建市場分析】成約増も「伸び」に陰り。地価上昇の波に乗れない中古戸建市場の実態
投稿日:2025.12.27
こんにちは。
福山市の宅建マイスター、杉野です。
2025年も残すところあとわずかとなりました。本年も多くの不動産取引に関わらせていただき、心より感謝申し上げます。
さて、毎年恒例となりました「福山市・中古戸建市場の年間分析レポート」をお届けします。今年の福山市中古戸建市場を一言で表すと、「地価上昇の恩恵を受けきれず、物価高による家計防衛意識が価格を押し下げた一年」でした。
実際の成約データに基づいた「2025年の総括」と「2026年の戦略」を解説します。
1. 2025年のエグゼクティブサマリー
データ上のトピックスは以下の通りです。
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成約件数は増加するも、伸び率は鈍化: 年間で153件(※)の成約があり、過去7年で最多水準となりましたが、昨年の急増に比べると伸び率は4.8%にとどまり、頭打ちの傾向が見え始めています。
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「地価上昇」と「成約価格」の乖離: 近年、地価や建築費の上昇が続いていますが、中古戸建の平均成約価格は1,490万円となり、2022年をピークに3年連続の下落となりました。
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「生活防衛」による予算縮小: 食料品やエネルギー価格の高騰が家計を直撃し、住宅購入に回せる「可処分所得」が減少しています。その結果、市場が地価上昇への期待に応えられるほど成長していない(価格転嫁できていない)実態が浮き彫りになりました。
※本記事のデータは、2025年12月27日時点における西日本不動産流通機構(レインズ)に成約登録された物件を基に作成しています。市場にはこれ以外にも、宅建業者間で相対取引された物件や、登録義務のない取引など多数の成約事例が存在するため、実際の市場規模は本データの数値よりも大きくなります。
| エリア | 件数 | 平均成約価格 | 平均成約日数 | 平均値下げ率 |
| 全体 | 153 | 1,490万円 | 230日 | 12.5% |
| 北部 | 54 | 1,326万円 | 298日 | 19.1% |
| 西部 | 35 | 1,270万円 | 261日 | 12.8% |
| 東部 | 33 | 1,542万円 | 215日 | 9.1% |
| 中心部 | 13 | 1,883万円 | 114日 | 10.3% |
| 南部 | 11 | 1,935万円 | 98日 | 4.1% |

2. 2024年との比較分析 ~「長期化」と「選別」の年~
2024年と比較すると、成約数は増えているものの、売主様にとっては「我慢」を強いられる場面が増えていることが分かります。
| 項目 | 2024年実績 | 2025年実績 | 変化のポイント |
| 成約件数 | 146件 | 153件 | +4.8%(微増) |
| 平均成約価格 | 1,526万円 | 1,490万円 | -2.3%(下落) |
| 平均成約日数 | 207日 | 230日 | +23日(長期化) |
| 平均値下げ率 | 10.9% | 12.5% | +1.6pt(拡大) |
▼ 成約件数の伸び悩み
2023年から2024年にかけては36件の大幅増(約32%UP)でしたが、2025年の増加幅はわずか7件にとどまりました。需要が一巡し、買い手の動きが慎重になっている様子がうかがえます。
▼ エリア格差の拡大
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南部エリア: 平均98日で成約。昨年(212日)から大幅短縮しており、依然として強い人気を誇ります。
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北部エリア: 平均298日(約10ヶ月)と長期化が顕著で、平均値下げ率は19.1%に達しています。
▼ 長期滞留在庫の高止まり
売り出しから成約まで「360日超(1年以上)」かかった物件は、2024年の25件から2025年は26件と、高い水準で推移しています。これは一時的な現象ではなく、「価格設定を誤ると1年以上売れ残る」というリスクが、市場に慢性的に存在していることを示しています。

3. 2019年からの長期トレンド ~なぜ地価上昇でも価格は下がるのか?~
7年間の長期データ(2019年~2025年)を俯瞰すると、市場の構造的な変化が見えてきます。特に注目すべきは、「物価上昇」が引き起こす「住宅予算の圧縮」です。
① 物価高による「可処分所得の減少」
平均成約価格は2022年の1,766万円をピークに、2025年は1,490万円まで下落トレンドが続いています。
一般的に地価が上がれば不動産価格も上がると考えがちですが、現在は「生活費の高騰」がそのセオリーを打ち消しています。
食費、光熱費、ガソリン代などの高騰により、家計の手取りから自由に使えるお金(可処分所得)が減っています。買い手は将来の生活を守るため、「住宅ローンの借入額を抑える(=物件価格を下げる)」という防衛的な行動をとらざるを得なくなっています。
② 「リフォーム費用」の高騰によるダブルパンチ
さらに、建築資材の高騰により、購入後のリフォーム費用も跳ね上がっています。
買い手は「物件価格+リフォーム費用」の総額で予算を組みます。リフォーム代が高くなった分、そのしわ寄せとして「物件本体の価格」を安く抑えなければ予算が成立しないという構造的な事情があります。
③ 成約数の回復基調と、その先の課題
成約件数は2021年の底(46件)からV字回復を見せましたが、前述の通りその勢いには陰りが見えます。
市場には常に800件前後の新規登録(在庫)があり、供給過多の状況は解消されていません。


4. 2026年の売却戦略 ~宅建マイスターの提言~
データ分析から導き出される、2026年の市場を乗り切るための戦略をお伝えします。
戦略①:買い手の「生活防衛意識」を理解する
「安く買い叩こうとしている」のではなく、「今の物価高では、その価格だと生活が成り立たない」というのが買い手の本音です。
地価上昇=高く売れるという思い込みを捨て、買い手の「購入後の生活(リフォーム費や維持費)」まで想像した、現実的な価格設定が選ばれる鍵となります。
戦略②:需要期を見逃さない(春と11月)
2024年、2025年ともに11月に成約件数のピークが来ました。
春の需要期はもちろんですが、近年定着しつつある「晩秋の需要期」に向けて準備を整えることが、早期成約の鍵となります。

戦略③:長期化リスクへの早期対処
データでは、成約まで1年以上かかるケースが高い水準で続いています。
「とりあえず高めで出して様子を見る」という手法は、時間が経つほど家の資産価値(築年数)を目減りさせ、買い手の選択肢から外れていくだけです。特に北部や西部エリアの方は、最初から競争力のある価格設定を行うことが、結果として最も有利な売却につながります。
5. まとめ
2025年は、地価上昇というプラス材料がありながらも、物価高による家計への圧迫が勝り、中古戸建価格が伸び悩む「もどかしい一年」でした。
しかし、年間153件(レインズ登録分のみ)という成約数は、市場に確実な需要があることの証明でもあります。
重要なのは、市場全体の「雰囲気」に流されず、ご自身の物件が置かれている「現実(買い手のシビアな財布の紐)」を直視することです。
「リフォーム代が高騰している今、現状有姿でいくらなら売れるのか?」
「生活防衛意識が高まる中、選ばれる物件にするには?」
そのようなお悩みをお持ちの方は、ぜひ杉野伸不動産事務所にご相談ください。最新のデータに基づき、売主様のご希望に沿った完全オーダーメイドの販売戦略をご提案いたします。



